第9回 頭のなかにお花畑を描けるやつにしか、お花畑はつくれない

第9回 頭のなかにお花畑を描けるやつにしか、お花畑はつくれない


「あたしが生きている間に、見てみたいねぇ、6段目ってやつをさ。ここんとこ世の中穏やかじゃないじゃないか。インスタントに怒れる場所を探している。ひとの過去をほじくり返して落ち度を見つけたり、怒りを向けていい対象の旗を見つけりゃあこの指止まれって言っているかのようにそこに群がる。そいつらは正義のマントを羽織ってやがる。あたしゃあそういう輩が心底嫌いだね」

ばあはそう言いながら、灰皿にタバコを押し付けている。

「ここ、禁煙なんすけど、、、」ぼくは申し訳なさげに小声でばあに伝えると

「なに、もう吸ってやしないさ」とばあはあっけあかんとした調子だ。

「ところで、ばあさ、その6段目ってなんなんですか?」

「あんた、マズローって名前聞いたことくらいはあんだろ?」

「はい、学校で習った気がします。5段階欲求を唱えてたひとですよね」

「ああ、そうさ、けどあいつ死ぬ間際にあたしにさ、6段目を発見したんだよ!って目をキラキラさせて言ってきたんだ。」

「??」

「ああ、あいつとは腐れ縁でね」

「すごいひとと友達だったんですね。。それで6段目ってなんだったんですか?」

「それがなあ、聴く前にぽっくり逝っちまいやがったんだ、だからこっから先はあたしが思う6段目ってやつをお前さんに聞かしたるわ」


そう言うとばあは、メニュー表を拡げ、ビールを指差し頷きながらぼくに視線をおくってくる。(教えてやるからビール奢れってことかよ、、ぼくは向かいの席の清掃をする店員を呼び止めビールを注文した)

ぐびっとジョッキの半分くらいを一気に飲み干したばあは話を続けた。


5段目は何だったか覚えてるかい?そうだ、自己実現。じゃあその先だ自己を超越したそれは、社会だ。社会実現だよ。自分という狭い領域を飛び越えて社会益=自己益って言うふうになるのさ。自己の拡張とも言ってもいいのかもしれないね。例えば、タクシーに乗ったとしたら、ありがとうの気持ちでお金を払うだろ。循環だね。それは自己益ってやつだ。けどあたしが関与しないところで飢餓をなくそうとか困ってるひとを助けようってひとがいるだろ。そのひとたちが頑張ってくれるおかげ助かって人がいる。そうするとそれは結局あたしの自己益にもなるんだよ。これはもうちょっと大きな循環になるんだよ。あたしゃ貪欲なのさ。あたしはあたしの幸せだけじゃ満足できないのさ。みんなが幸せじゃなきゃ」


「でもそれじゃあ、ばあはなかなか幸せになれなくないですか?みんなが幸せになるなんて不可能ですし、みんながみんな他者の幸せが自分の幸せっていうふうには考えられないんじゃないですかね?理想はわかりますけど。ぼくもぼくのことで精一杯だし」


「だから、見てみたいじゃないかその理想ってやつを。6段目が普通になった世界を。それにあたしはね、欲望には貪欲でも、幸福には敏感なのさ。今日もうまい酒が飲めた。それはあたしにとっては幸せなことなのさ。けどそのうまい酒ってやつが案外むずかしいんだがね。おっと、いっぱい喋ったらトイレに行きたくなってきたよ。ああこれも循環だね。HAHAHA」


ばあが笑いながら、トイレに席をたってから随分と時間はたつがなかなか帰ってこない。先にお会計を済まそうとしたところ「先に帰られたお連れさまがお支払いを済まされていきました」と説明された。


(あのばあ、、、、)


ぼくは、何とも言えない気持ちになりながら店を出ると
大きな虹がかかっていた。

 

 




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この会話はフィクションです。

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今週は前回の続きをふつうに書こうと思ったんですが、
小粋なばあが「あたしを出せ」と頭の中で暴れるもんで。

虹の写真はノンフィクションです〜。

今日も遊びに来てくれてありがとうございました!どんな一週間でしたか?ぼくは記憶がなくなるくらいに畑DAYSっす。それでは今週はこのへんで〜。

また来週までお達者で!

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