#8『覚えると忘れる』

#8『覚えると忘れる』
 私は中学生の時にハナコさんと同じクラスになった。たいして親交が深かったわけでもないが、私は彼女とたわいもない会話をするのが好きであった。ハナコさんの黒くて白くて赤い世界観はその後の私に大きな影響を与えることになった。そんな彼女の今を描いてもらえることになった。毎週金曜日はハナコさんの連載です。—— 南 大樹
#8 『覚えると忘れる』
 私は今、テスト期間です。大学生なのですが、非常に莫大な知識を詰めるタイプのテストがいくつもあります。

 よくみんなが言うことを私も言いたい。

 なんで簡単に覚えられるものもたくさんあるのに、こんなにも覚えられないことだらけなんだろう。

 これに答えがあることはわかっています。
 でも、私が言いたいのはそんな知識じゃなくて、怒りです。なんで私ってこんなに何も覚えられないのって怒りです。もう自分で自分が嫌になってしまいます。なんで覚えなきゃってこんなに必死なのに私の脳みそは不必要だって判断しちゃうんだろう。。。。

 しかも、忘れてもいいって思ってるのに忘れられないことまであります。私、私の頭の中が私の思ってることと違いすぎて信じられない!
 友達にされたちょっと嫌なこととか、どうでもいい嘘をつかれたこととか、これからの人生に必要ないって思っていることが全然忘れられません。本当に不思議なものです。

 でも、本当はわかってるんです。こんな忘れていいのに忘れられないものたちが私を、私の人生を豊かにしてくれています。どんなどうでもいい記憶のひとつひとつも、思い出と呼ばれるものなはずです。決して良い記憶ばかりではないし、金輪際思い出すこともないだろうと思うような記憶もありますが、自分が生きてきたちょっとした目印みたいな感じなのかなって思います。もしかしたら私が今必死に覚えてる認知症についての知識も、「全然覚えられなかった認知症について」の思い出として残るのでしょうか。いや、全く愛おしく思えません。こんなに頑張ってるんだから覚えたこと全部忘れず、ずっと覚えていたい。。。。。

 私はあります。結構ぼーっとしている人なので、授業を聞いている時とか、電車に乗っている時とか、知らないうちにぼーっとしていて、頭が空っぽになっている時があります。
 その一方で、頭を空っぽにするときもあります。
 やらなきゃいけないことで頭がいっぱいになったり、抱えきれない思いで胸がいっぱいになったとき、冷静になるために頭を空っぽにしようとします。
 でも、頭が空っぽになってしまう時とは全然違って、何も考えないようにしようとか、考えていることをやめようとしても難しいです。そういうとき、今頭の中にあるものをひとつひとつ確認して、そっと床に置くような感覚で一度自分の領域の外に出します。整理ということばで表されるものとはまた違って、ひとつひとつに優しさをもって、そっと移動させる感じです。
 頭がいっぱいになって余裕がなくなることは望んでいません。辛いから。でも、なんだか頭の中を空っぽにするその過程というのはとても尊いことに感じます。
 自分を大切にすることの本質があるような気がしているのです。

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『世界からあなたが消えたなら』

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